「望んで難民になる人などいない」

2017.7.7 15:15 ヴィンセント・リーさんが祖母とともに、オーストラリアのシドニーに到着したのは1981年、15歳の時だ。祖国カンボジアのポル・ポト政権崩壊で始まった内戦から逃れ、安全な地で新たな人生を始めるためだった。「逃げ回る生活がこれで終わった」。難民収容施設で与えられた6畳ほどの個室でそう思った。 センターでもりもりご飯を食べ、130センチしかなかった身長は、半年間で10センチ以上伸びた。生まれて初めて正規の学校に通い、英語の読み書きを学んだ。難民の友達の多くは学校についていけず脱落したが、学校清掃などのバイトをしながら高校を卒業。銀行に就職し、ためたお金でカンボジアに残る両親や兄弟ら8人の家族を呼び寄せた。職場の上司の勧めでさらに勉強し、名門シドニー大に合格。財政学で修士も取った。二度目の人生だ。「意志があれば達成できないものはない」と信じていた。 時折、ポル・ポト政権時代や難民キャンプの夢を見た。ダム建設のために掘らされた穴の底で眠ってしまった時のこと。大雨の夜。死が日常の日々。はっと目を覚ますと、背中がじっとりと汗でぬれていた。 オーストラリア人の友達に、苦難の日々を深く語ることはしなかった。話してみたことはあったが信じてもらえなかったからだ。普段は笑い合って過ごす友人から凄惨な過去の経験を聞くのは、豊かな社会で育った者には耐え難かったのかもしれない。